侍

2017年3月24日
By aki

「あーーー残念。 いー残念、うー残念、えー残念。
おーーー残念っ。」
里から戻ってきた天使が、溜め息と呟きを繰り返しながら
力なさげに畑を耕し始めた。

「天使さん…一体どうしたんだろう?」
「うん。 何だかよっぽど残念だったんだね、残念過ぎて溜め息が五段活用になってる。」
どうしたものやらと声をかけあぐねる犬、猿、キジ。
せんなく上目づかいに見守っていると、さらに天使がこう呟いた。

「あぁパンナコッタ! でも、でももうニラレバは無し。
世の中やっぱり焼肉定食」とぶつぶつ。

「分かった! 天使さん、せっかく里に行ったのに美味しいモノ食べ損ねたんだ、
その残念度って言ったらもう、幻覚よぎるレベル、って推理はどう?」
ドヤ顔の猿が、天使を元気づけようと秘蔵のバナナを取りだすと、
犬とキジも、それぞれとっておきの骨と虫を取りだしてきた。

差し入れを携え近付いてくる三匹を見て、海馬が慌ててやってきた。
「違う違う、天使が残念がっているのは、野球の話。
天使は里に通って野球の試合を観てた。 侍組を応援してたけど、負けちゃった。
ボクも一緒に応援してたけど、米組との勝負はほんとに惜しくてね、
何だかボクまで、思わずボーっとしちゃってる…」

「そう…あとちょっとだったのよね」続きは、天使自らが説明しだした。
「みんなで野球観ながら、侍、侍ってワーワー盛り上がってね、
だってすごいの、こうカキーンって打ってパシーンって捕って、ああしてこうして…」
打つ捕る投げる侍の決死の美技は、変換器が天使の身振り手振りとなると
どう見ても平和な盆踊り大会にしか見えないのだが、
興奮した口調は、間違いなくワクワク楽しんできたことを物語っている。

「でもパンナコッタとニラレバと焼肉定食って…」次なる猿の一投を、天使が
「ほら、これ! 桃太郎さんから新しい種を貰ってね、…」あらぬ方向に転がしかけると
すかさず海馬が俊足を飛ばし、拾い上げながら
「その前日、桃太郎さんから‘意味のないことを書く’という種を貰っていたので
さっそく畑に撒いてみているところ」だと継投した。

「そう♪ ‘なんてこった’‘過ぎた話にタラレバは無い、世の中は弱肉強食だ’を
意味ない感じにしてみたの、どう? 意味なし芳一、ナンチャッテ~♪」
さっきまでの溜め息が、ほんのりと鼻歌に変わってきた。

「んー。 ボーダーだな、おやじダジャレとの境目・ギリギリのライン。」
誰もが密かにそう思ったものの、しかしそんな無粋はあえてここで吐くまい、代わりに
とびっきりの‘意味ない一打’を放ってやるぞと無心に畑を耕しだす面々。
ファウルかフライかゴロか、でもどの一打も誰かにとっては確実に意味を成していくから、
全く意味のないことを創り出すのは、案外難しいことなのかも知れない。

「そうそう、始球式での野茂さんのボロネーゼも豪快だったのよ、
いや、マヨネーズかな、うん。 ほうとう~♪」 真剣に強烈なヒットで報いたくなった面々には、
‘トルネードの暴投’だと突っ込む余裕はない。

静まり返った畑に、天使の鼻歌だけが響いている。

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