木箱

2017年3月14日
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以下はかつてヒーリング・ライティングに参加していた方が書いた文章です。
僕が読んで感動したので、ご本人の許可をいただいてここに掲載します。
ただし、個人名や、個人が特定できる情報は完全に抜いたので、これでみなさんにオリジナルの良さが伝わるかどうか心配ですが、行間にあった内容を想像しながら読んでみて下さい。

「大切なものについて書いて下さい」というエクササイズでした。

タイトル「木箱」

成人式から帰ってくると、母がわたしに小振りの木箱をくれた。寄木細工でできている。母は言った。

「あなたが困ったときに開けなさい。ただし、あなたの子どもが結婚する前には、必ず一度は開けてね」

箱はパズルのように開けるもので、はじめは開け方がわからなかったけど、ときどき動くところを動かしては、いつかほぼ開けられるようになった。結婚が決まって挙式の日程などを決めようとしていた頃、最後の謎が解けた。小さな引き出しが出てきた。それを開けようかと思ったけど、特に困ったことはないので、そこは開けずに取っておいた。

幸せに暮らし、二人の子どもを授かった。夫は誠実な人に思えた。子育ては楽しかった。そんなある日、夫が浮気していることがわかった。あまりにも悲しくて悔しくて、毎日どう過ごしたのかよく覚えていない。この頃、母も病気で死んでしまった。

二人の子どもはしっかりと育てなければならない。だけどあの人の子どもだと思うと、つい怒りが湧き、それでも二人には罪はないと思うと優しくしなきゃと思う。この子たちのためには夫と仲良くしているのがいいとは思うが、ときどきあきらめが来たり、怒りが来たり、後悔が来たりいろいろする。

そんなとき、優しい男性が現れた。この人だったらなんでも打ち明けられると思った。その人がコーチの資格を持っているというから、夫のことも話した。それから一年ほどがたち、何度かお話を聞いてもらい、わたしたちは男と女の関係になった。後悔をまったくしていないといえば嘘になるけど、喜びもあることは確か。でも、子どものことを思うと申し訳なく思ったりもする。夫に対しては、複雑すぎてあまり考えたくない。でも、この複雑なことが悪くはないと思った。会うたびにコーチの彼とは親密になり、夫とは冷めていく。子どもの手前仲良いふうは装っているけど、案外子どもも何かに気付いているような気がした。

そんなある日、コーチの彼には奥さんのほかにも付き合っている女性が何人かいることがわかってしまった。嘘は隠すことができない。まあ、そんなもんかと思った。

木箱を開けることにした。困っているとは思っていなかったけど、なんとなく。

パズルを開くようにひとつずつ木の断片を動かしていった。そして最後の引き出しが出てきた。引き出しには取っ手に小さな玉がついていて、それを引き出す。ピロピロンとオルゴールのような音がした。引き出しには薄い木の板で蓋がしてある。それをそっとはずした。中には和紙がたたまれて入っていた。和紙を開く。

一行目、筆で知らない女の人の名前が書いてあり、その人からまた別の知らない女の人へと書かれていた。名前がとても古めかしい。
こんなふうだ。
AからBへ。

二行目にも、同じようなことが書いてある。
BからCへ。

三行目には少し変化があった。
CからDへ。あなたはわたしの宝物。

四行目で意味がわかった。Eという、わたしが小学生の頃に亡くなった祖母の名前が出てきた。
DからEへ。あなたを生んでよかった。

五行目で確信した。Fという母の名前も出てきた。
EからFへ。あなたを育てられたのがわたしの誇りよ。

そして最後の行。Gというわたしの名を見つけた。
FからGへ。素敵な時間をありがとう。

わたしの先祖であろうAさんは、なぜこれを始めたのかわからないけど、とても素敵な贈り物だと思う。

これを見て、たくさんの疑問が湧いた。娘が何人かいたらどうするのだろう? 長女だけに渡したのだろうか? 息子には何も手渡さないのだろうか? この紙に書く場所がなくなったらどうするんだろう? そして、娘にはなんて書こう? これらの疑問も、わたしへの贈り物のように感じた。

娘が嫁に行くまで、娘に送る言葉を思う。

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