フィクション

2017年4月19日
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「ただいま〜♪」里でのミサから、天使が いつになく晴れやかな顔をして帰ってきて、言った。 「ご復活、おめでとう!」 「天使さん、お帰り! そっか、イースターだったんだね。 おめでとう!」 「お土産頂いてきたの。 ほら、見て…」 天使がそっと手のひらをひらくと、小さな卵が一つ。 「卵はね、新しく生まれた命の象徴として、 キリストが、十字架の死から永遠の命へと復活したイースターのお祝いに 飾ったり、プレゼントしたりするんだよ。」 海馬が優しく説明を添えた。 「うわぁ、卵かぁ…あぁこの丸み、それに なんだか、ほんのりとあったかくて、いいねぇ…」 卵を見て誰よりも親近感を覚えたキジが、「早く、ここにここに」と翼で促し そっと自分のお腹の下に収めた。 猿が「やっぱり蛙の子は蛙、鳥の卵は鳥だね! なんかしっくり収まっちゃってる。 いいなぁ…そしたらボクは、生まれた後におんぶしたり抱っこしたり、 ノミを取ったりしてあげよう。」 待ち遠しそうに言った。 「キジさんも猿さんも、いいなぁ。 だってボクは、どっちかって言うと 赤ちゃんでなくお母さん・妊婦さんの安産を守るのが専門だから…」 犬が羨ましそうに言いかけたが、すぐに 「でも生まれたら、一緒にお散歩できるね!」と思い直し、やはり 楽しみに待つことにした。 「じゃ、えっと、私は、私は…」帰り道、ずっと卵を手の中で温めてきた天使は、 にわかに芽生えた母性をどう発揮したものかと考えた挙句、 「分かった! 卵のあいだは、歌を歌ったり絵本を読んだりしてあげよう。 生まれたら、一緒に踊りも教えてあげることにするわ♪」ようやく役割を見つけた。 そんなやりとりを、海馬はじっと、少し悲しそうな顔をして見つめていた。 「ボクは…ボクには、今できることは…ないからなぁ… そこまで若いと、さすがにねぇ… だってボクは、主に老後担当だもの。」うつむいてボソッとつぶやいた。 「う〜ん…だからボクは、いつかやがて卵ちゃんが大きくなった暁に 張り切って出番に応えることにする。 それまで待つよ!」 気を取り直すようにすっと空を見上げた鼻の先の長さは、でも 気の遠さを物語っているようでもあった。 なんだかんだと語らいつつ、結局、キジのお腹の下の小さな卵に ギュウギュウと寄り合っている彼らに、桃太郎が近づいてきて言った。 「今回のテーマは、“大切なものを書く”だからね。」 ハイ、と差し出されたその種は、新しい命の鼓動と共に 彼らの思いを、一層、優しく大きく膨らませていく。
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2017年4月8日
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春爛漫〜ポカポカ陽気に誘われて、桜が一斉に満開を迎えた。 桃太郎は「桃と甲乙つけがたいなぁ」と言いながらほれぼれと仰ぎ見、 犬は、花咲か爺さんと日夜灰を撒き続けた労苦をねぎらい合い、 猿とキジは、桜の木に‘登って’‘止まって’花にまみれたい衝動に駆られつつも それで散らしてしまうのは忍びないと、おとなしく見上げている。 天使も、うっとりと眺めてはいるものの、どこか気がそぞろ…その証拠に ゴキゲンならいつも出てくるはずの鼻歌が、ない。 実は、少々、気がかりなことがあるのである。 「新しいリンゴに慣れない…」 海馬が変換すると「先日、新しくPCを買い換えた。 その際、窓sのものからリンゴのものに変えた。 で、使いこなせるようになるまで目下悪戦苦闘中。」となる。 天使は元々、機械にはあまり強い方ではない。 嫌いではないが、理論やらウンチクやらが苦手。 物についても、一つの物を長く大事に使いたがるタイプだから、 前のPCも、かれこれ10年近く愛用していた。 故障や不具合があるわけではなかったが、いよいよもって サポートサービスが終わってしまうことになり、 否応なしに買い換えを迫られることになったのである。 「ならば心機一転、今度は全く違うのにしてみようかと。 それに 春はなんだか気分もウキウキするから、 新しいこと始めるのにちょうど良い気がしてね。 今はまだ、ちょいちょいリンゴにつまずいているけれど、 これからの冒険は、しっかりリンゴを携えて行けるようになりたい♪」 そんなわけで、時間を見てはリンゴを打ち、叩いてみているのである、 字面で見ると物騒だが、そっと、優しく優しく。 真新しい世界には、海馬の出番はなかなかないけれど、 いろんなことを「うん、そうか、なるほど」と密かに記憶にとどめるべく奮闘しているはずで、 そんな海馬に‘招集’がかかる日も、きっとそんなに遠くはない(…であろう)。 リンゴの花も、きっと見事に咲きますように。
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2017年3月24日
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「あーーー残念。 いー残念、うー残念、えー残念。 おーーー残念っ。」 里から戻ってきた天使が、溜め息と呟きを繰り返しながら 力なさげに畑を耕し始めた。 「天使さん…一体どうしたんだろう?」 「うん。 何だかよっぽど残念だったんだね、残念過ぎて溜め息が五段活用になってる。」 どうしたものやらと声をかけあぐねる犬、猿、キジ。 せんなく上目づかいに見守っていると、さらに天使がこう呟いた。 「あぁパンナコッタ! でも、でももうニラレバは無し。 世の中やっぱり焼肉定食」とぶつぶつ。 「分かった! 天使さん、せっかく里に行ったのに美味しいモノ食べ損ねたんだ、 その残念度って言ったらもう、幻覚よぎるレベル、って推理はどう?」 ドヤ顔の猿が、天使を元気づけようと秘蔵のバナナを取りだすと、 犬とキジも、それぞれとっておきの骨と虫を取りだしてきた。 差し入れを携え近付いてくる三匹を見て、海馬が慌ててやってきた。 「違う違う、天使が残念がっているのは、野球の話。 天使は里に通って野球の試合を観てた。 侍組を応援してたけど、負けちゃった。 ボクも一緒に応援してたけど、米組との勝負はほんとに惜しくてね、 何だかボクまで、思わずボーっとしちゃってる…」 「そう…あとちょっとだったのよね」続きは、天使自らが説明しだした。 「みんなで野球観ながら、侍、侍ってワーワー盛り上がってね、 だってすごいの、こうカキーンって打ってパシーンって捕って、ああしてこうして…」 打つ捕る投げる侍の決死の美技は、変換器が天使の身振り手振りとなると どう見ても平和な盆踊り大会にしか見えないのだが、 興奮した口調は、間違いなくワクワク楽しんできたことを物語っている。 「でもパンナコッタとニラレバと焼肉定食って…」次なる猿の一投を、天使が 「ほら、これ! 桃太郎さんから新しい種を貰ってね、…」あらぬ方向に転がしかけると すかさず海馬が俊足を飛ばし、拾い上げながら 「その前日、桃太郎さんから‘意味のないことを書く’という種を貰っていたので さっそく畑に撒いてみているところ」だと継投した。 「そう♪ ‘なんてこった’‘過ぎた話にタラレバは無い、世の中は弱肉強食だ’を 意味ない感じにしてみたの、どう? 意味なし芳一、ナンチャッテ~♪」 さっきまでの溜め息が、ほんのりと鼻歌に変わってきた。 「んー。 ボーダーだな、おやじダジャレとの境目・ギリギリのライン。」 誰もが密かにそう思ったものの、しかしそんな無粋はあえてここで吐くまい、代わりに とびっきりの‘意味ない一打’を放ってやるぞと無心に畑を耕しだす面々。 ファウルかフライかゴロか、でもどの一打も誰かにとっては確実に意味を成していくから、 全く意味のないことを創り出すのは、案外難しいことなのかも知れない。 「そうそう、始球式での野茂さんのボロネーゼも豪快だったのよ、 いや、マヨネーズかな、うん。 ほうとう~♪」 真剣に強烈なヒットで報いたくなった面々には、 ‘トルネードの暴投’だと突っ込む余裕はない。 静まり返った畑に、天使の鼻歌だけが響いている。
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BOOCSダイエット

2017年3月18日
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「キジさん、おはよう! 今朝もずいぶん早いねぇ。」 「あぁ犬さん、おはよう。 今、元気に夜明けのひと鳴きしてきたとこさ! 本来は鶏さんたちの役割なんだけど、今年は彼らが 十二年に一度の‘干支当番’に当たっていて、やれ イベントだなんだって里に呼ばれちゃ夜が遅く、寝不足続きだって言うんで 時々、代わりに鳴きに行ってるんだ。」 「干支当番か、そりゃあ大変だ。 ボクたち猿も、去年は大忙しだったもの。 年明けにお役目交代して、ようやくホッとしているところさ。 犬さんたちも来年に備えて、今からスタミナ蓄えておくといいよ。 あ、もしかして犬さん、それで今朝も早くから桃太郎さんとお散歩に?」 「そういうわけでもないんだけど…桃太郎さんさ、今、 ダイエットにハマっているらしくてね。」 「ダイエット? あぁ…そういえばこないだ 腰に付けた種取り出す時、ちょっと手間取ってたもんな。 何だかんだ言ってたけど、きびだんご、ダイエット中だから止めてるのかもな。」 のっそりと寝床から這い出し、夢うつつに着替えをしながら 天使は海馬に尋ねた。 「ねぇ…私のクビレ、どこ行っちゃったかしら…?」 「そんなものは…ない、ハナっからない、だから探しに行くまでもない! そもそも生まれた時からずっとそんなだったじゃないか。 ‘キューピー腹’とかポジティブに言ってたけど、 大人のたぬきになって、初めて信楽の仲間たちとご対面した時は、 さすがに神妙になっていたよねぇ…覚えてる?」 「あぁ海馬さん…耳が痛くて目が覚めるぅ… このまままた布団に撃沈してしまいそうよ…うぅ、そうだった、 あれ以来、腹鼓打つのも一升瓶抱えて歌うのも、自重したんだった。」 気を取り直して外に出てみると、桃太郎が彼らに「BOOCSダイエットと言ってね~」 ‘脳内ナントカ’とか‘心地良いがドウ’とか、説明を始めていた。 禁止や制限によって何かを矯正するのではなく、 脳が心地良いと感じることを始め・続けることによって 良い影響を全身に及ぼしていく、‘脳の快’にポイントを置いた健康法。 「お陰で、最近少し帯がゆるくなってきたんだ。 BOOCSダイエットの種だって ほらね、はいっ!」と素早く腰から取り出してみせ、口笛のようにさりげなく 「きびだんご、別にダイエットで止めてるわけじゃないよ~」とも呟いて、 ちゃあんと全部聞こえてたんだからねとアピールする桃太郎であった。
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2017年3月11日
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ある春先の水曜日。 散歩から帰った天使と海馬に、犬たちが言った。 「おかえり! あれ、天使さん、 おデコ真っ黒だけど、どうしたの? 花咲か爺さんとこの手伝いでもしてきたの?」 「あぁ、灰、ハイ…いいえ、違うの、花咲か爺さんじゃなくて… 塗られてきたの…」 物思いにふけりながらぼんやりと答える天使に代わって、海馬が ‘つい先程の出来事’まできびすを返すやいなや戻り、説明を始めた。 天使は教会に行ってきた。 今日は‘灰の水曜日’といって、 イースター=つまり復活祭、に向けて準備期間に入る日。 これからの約40日間、キリストが辿る受難と死を思い、各々 日常を顧みて、慎みや節制を持って過ごしたりする、始まりの日なのである。 人々は司祭から「あなたは塵から生まれ、塵に帰る者」という言葉と共に 額に灰を受ける。 ほんの数秒間の儀式なのだが、これが天使にとって 毎年、何か深く、大きなけじめのような思いを抱かせるのだ。 「灰を塗られると、この自分もいつか死んで土に帰るんだ、って まざまざと自覚させられる思いがするの、命の巡りを考えさせられるの。 灰になる命のはかなさ、でもそれが生み出す果てしない豊かさ。 灰は、命の終わりの形であり、新しい命の始まり… そんなことを思うと、全てがただただ神秘で…」 「うーん。 そうか…」感慨深げに犬が答えた。 「そういえば、花咲か爺さんとこの桜も、そう考えると あれは元々、死んだ仲間のポチだった。 ポチの墓標に立てられた小さな木が大木になり、 その大木が切り倒されて臼になり、 臼はかち割られて薪になり、薪は燃やされて灰になり、 灰は土に撒かれて桜の木にたくさんの花を咲かせている。」 姿形は変われども、命は豊かに巡っている。 何となく、誰からともなく土を見、空を見上げて 祈りと感謝の気持ちに浸る一同。 あの桜の木にも、もうじきまた、たくさんの花が咲く。
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